出物を待つM&Aから、創りに行くM&Aへ
出物を待つM&Aには限界がある。市場に出てくる出物は売り手事情で発生し、買い手の中計や理想条件に合わせて現れるわけではない。偶発的な案件に飛びつけば「動いた感」は出るが、稟議段階でギャップが顕在化し、結局は通らないという徒労になりがちだ。だからこそ必要なのは、M&Aを出物待ち(Contingent)から創りに行く(Scheduled)へ転換し、ターゲットを“逆指名”して取りに行く発想である。
問題はその入口にある。本社と現場のコミュニケーションが噛み合わない限り、逆指名は絵に描いた餅になる。中計で「3年でASEANに1,000億円投資」と先に数字を掲げ、現場に「いい案件を持ってこい」と投げる。しかし国ごとに市場環境も候補もリスクも異なる以上、「いい案件」という曖昧な要求に「大型・高収益・低リスク・安価」と条件だけが積み上がれば、現場は“却下される理由”を集める作業に追い込まれる。
本来は順番が逆だ。各国の畑(市場構造、競争環境、規制、資金需要、オーナー事情)を踏まえ、「この畑ならこの程度の果実が取れる」という仮説を積み上げ、その合算として投資目標が“必要になる”べきである。ここでいう果実収穫の仮説こそ、「ここが買えたらいいね」という逆指名(Wish List)だ。ただしWish Listは羅列で終わらせてはいけない。本社と現法が共同で、Wish Listを生み出す前提―すなわち「ゴール」と「ターゲットユニバース」を揃えることが重要である。
ゴールとは投資金額や件数ではなく、成功イメージ(短期・中期・長期)を言語化し、「何を取りに行くのか」(機能・市場・顧客接点・データ・人材など)を具体化することだ。加えて、どの国・どのセクターに、どのサイズ帯・どのオーナー類型のターゲットが現実的に存在し得るのか―この“地図”(ターゲットユニバース)を本社と現法で共有することが、摩擦解消の第一歩になる。
さらに、この共同設計は“守り”ではなく“攻め”でもある。売り手が動く理由を踏まえ、どの類型の相手なら動き得るのか、こちらは何を提供できるのか、どの取引形態なら成立しやすいのか――逆指名に必要な入口条件を共通言語として持てる。すると、案件のたびに「理想に合うかどうか」を照合する不毛な作業ではなく、「このゴールとユニバースに照らすと狙うべき相手はここだ」という建設的な会話に切り替わる。加えて“やらないリスク”も、ゴールと地図があることで初めて意思決定のテーブルに乗ってくる。
要するに、逆指名型M&Aの出発点は「案件探し」ではない。本社と現法が共同でゴールを打ち立て、逆指名に足るターゲットユニバースについて共通認識を持つこと――ここが揃って初めて、出物待ちから創りに行くM&Aへ踏み出せる。