2026年9月号(No.670)バックナンバー

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共通の経験が築くもの-JUGAS創立55周年、人・絆・日星交流の次の章

JAPANESE UNIVERSITY GRADUATES ASSOCIATION OF SINGAPORE
Second Vice President

Tan Genevieve(タン ジェネヴィーブ)

はじめに

シンガポールで暮らす日本人にとって、この街は仕事の場であると同時に、自分自身を問い直す場でもあるだろう。言語も習慣も異なる環境の中で、それでも根を張り、関係を築き、日々を重ねていく。その経験は、言葉にしにくい種類の豊かさをもたらすものだと思う。

実は、その経験の鏡像とも言えるシンガポール人がいる。日本という異国で大学教育を受け、帰国後にシンガポール社会でキャリアを歩んできた人々である。1970年の創立以来、そうした卒業生たちの拠り所となってきたのが、JUGAS(シンガポール日本大学卒業生協会、Japan University Graduates Association of Singapore)である。

シンガポールに暮らす日本人と、日本に学んだシンガポール人。立場は異なるが、異文化の中で時間を重ねた経験を持つという点において、両者の間には自然な共鳴がある。2026年はJUGASにとって創立55周年の節目であり、同時に日星国交樹立60周年(SJ60)という外交上の大きな転換点でもある。本稿では、JUGASの歩みとシンガポール日本商工会議所(JCCI)との連携を振り返りながら、日星関係の次の章を支える人材交流の可能性について考えてみたい。

JUGASとは? 55年という蓄積と会員層の変化

JUGASは1970年12月19日に設立された、シンガポール在住の日本大学卒業生(非日本人)による同窓会組織である。2026年はその創立55周年にあたる。現在、460名を超える会員が所属しており、その顔ぶれは実に幅広い。大企業の経営層や政府高官から若手専門職、そして現在日本で学ぶ在学生まで、異なる世代と専門領域を持つ人々が一つの組織のもとに集っている。彼らを結びつけるのは、単一の業界や世代ではなく、異国で過ごした人生の一章という共通の経験である。

国際的には、ASEANの日本大学卒業生協議会であるASCOJA(ASEAN Council of Japan Alumni)、および日本側のカウンターパートであるASJA(Asia Japan Alumni)インターナショナルを通じ、東南アジア全域の卒業生組織と緊密な関係を保っている。JUGASは単なる国内の同窓会にとどまらず、日本と東南アジアの関係を支えることに意義を見出す人々の、より広いコミュニティの一部である。

JUGASは、当時のASEAN加盟5カ国の日本大学卒業生協会とともに、ASEAN日本大学卒業生協議会(ASCOJA: ASEAN Council of Japan Alumni)を設立した。1

2005年9月には、日本への留学支援や帰国留学生のネットワーク構築を通じた日星相互理解への貢献が認められ、日本国外務大臣表彰を受賞した。半世紀以上にわたり、JUGASはシンガポールと日本をつなぐ静かな、しかし確かな一本の糸であり続けてきた。

JUGASの歴史を辿ると、会員層の変遷にひとつの物語が見えてくる。創設期から数十年にわたり、主な会員層はシンガポール政府の奨学金を受けて日本の大学で理工学等を修めた留学生であった。帰国後は公務員や政府系機関の技術者として、独立後のシンガポールの国家建設を支えた世代である。日本の製造技術や工学教育を身につけて戻ってきた彼らの貢献は、今日のシンガポールの礎の一部を確かに形成している。当時の日本留学は、ある意味でシンガポールという若い国家による戦略的な投資でもあった。

近年、その構成は大きく変化してきている。日本の文化・言語・社会への関心から、自ら志して留学を選ぶ学生が増えており、専攻も社会科学・人文学・経営学など文系分野に広がっている。シンガポール教育省の語学センター(MOELC)での日本語プログラムや独学での日本語能力試験(JLPT)受験を経て日本語力を磨き、文学や音楽、あるいは日本という場所への純粋な好奇心から関心を深めた若者たちが、大学進学先として日本を選んでいる。

こうした変化は、日本のシンガポールにおける文化的な存在感、そして両国の関係が個人の人生の次元でどのように発展しているかを映し出している。シンガポールで事業を営む日系企業にとっても、日本語と日本文化に対して言語的な意味にとどまらない体験的な深みを持つシンガポール人材の裾野が、着実に広がっていることでもある。

JCCIとJUGASのパートナーシップ教育から人材へ

JUGASとJCCIの関係は、学びの機会という、非常に根本的なところに起源を持つ。

筆者自身、JUGASと名古屋大学共同提供の奨学金を受けて名古屋大学に留学した。この奨学金制度の創設にあたってJCCIが果たした役割は大きく、その精神は今日のJCCIによるJUGASへの継続的な年次支援として受け継がれている。その継続性は、単なる制度的な慣行ではない。国境を越えた教育が育む人と人のつながりに、共通の価値を見出すという信念の表れだと感じている。

また両者は奨学金の枠を超え、ビジネスネットワーキングイベントや交流活動においても長年にわたって協力関係を育んできた。こうした場は、必ずしも大規模なものではないが、確かな意味を持つ。日本で学んだ卒業生が、20年前に同じ経験を持つ先輩と出会う場となり、企業の担当者が、これまで探し方を知らなかった人材と出会う場にもなる。

JUGASの会員は長年にわたり、次の世代への日本留学の普及活動に取り組んできた。教育フェアへの参加、情報提供セッションの開催、そして多くの会員が自身の出身校でのアルムナイトーク、これらは組織として課せられた義務というより、自分が受けた機会を次の世代に手渡したいという自然な動機から生まれた活動である。

こうした場で繰り返し出会うのは、本物の関心を持つ学生たちである。語学センターや独学を通じて日本語を学び、日本という場所に学術的な関心を超えた引力を感じている若者は少なくない。彼らが望んでいるのは、単に日本で学ぶことではない。日本とシンガポールの関係に、シンガポールにいながら貢献できるキャリアを築くこと、そして、両国にまたがるコミュニティの一員であり続けることである。

躊躇いが生じるとすれば、その理由は日本への関心の薄さではなく、見通しの問題にある。日本での大学教育を経てシンガポールに戻った人材に対して、どのような職業的機会があるのか、その認知度が、学生の間でも家族の間でも、まだ十分に高いとはいえない。機会は存在している。しかし、学生がそこへの道を知っているか、そして企業がそうした人材の存在を知っているかという点において、依然として埋めるべき距離がある。

JUGASは、日系企業がシンガポールで独自の採用構造と方針のもとで動いており、すでに積極的に現地人材を採用していることを十分に理解している。インターンシップやアプレンティスシップの仕組みを構築することが、すぐに正当化できる投資とは限らないことも承知している。だからこそ、ここで申し上げたいのは短期的な要請ではなく、より長い時間軸での展望である。

JUGASはASCOJAおよびASJAを通じて、ASEAN10カ国・地域の卒業生組織とつながっている。東南アジア全域における日本留学経験者のコミュニティは、全体として見ると相当な規模になる。日本語という共通言語を持ち、日本社会への理解を体験として持ち、日本への真摯な関心を共有する人材が、日系企業にとって重要な市場に広く分布している。このコミュニティとの関係を早い段階から築いていく企業は、インターンシップやキャリアトーク、あるいはJUGASのイベントを通じた非公式な接点を通じて、採用候補者を増やしているだけでなく、地域的な広がりを持つ人材パイプラインへの投資をしているといえるだろう。

これは要求ではなく、対話への入口として申し上げている。いかなる形の協力が双方にとって意味をなすか、JUGASはJCCI会員企業の皆さまとの率直な対話を心より歓迎する。

創立55周年を彩る2026年の活動

創立55周年を迎えた2026年、JUGASはその歴史の深さと未来への志向を併せて示すような一連の事業を展開している。

年の幕開けとして、2026年3月1日(日)に新年会ディナーを開催した。世代を超えた会員が一堂に会したこの場は、節目の年の始まりにふさわしいものとなった。

9月11日(金)には、第24回 ASJA-ASCOJA-JUGASシンポジウム2026をオーチャードホテル(シンガポール)にて開催する。JUGASが主催し、ASJAインターナショナルの支援のもと、ASEAN10カ国・地域のASCOJA加盟組織が一堂に会する場である。今年のテーマは「未来志向の日本・ASEAN間パートナーシップ ~信頼関係の構築とレジリエンス強化を基盤に~」(Anchoring Trust, Strengthening Resilience: Japan-ASEAN Partnership for the Future)。

このテーマ設定は意図的なものである。1977年に福田赳夫首相が表明した「福田ドクトリン」の「心と心の触れ合い」に基づく対等なパートナーシップの追求という原則が、約半世紀を経た今日いかなる意味をもつかを問い直すことが、本シンポジウムの出発点となっている。三つのパネル討議では、信頼に基づくパートナーシップが経済的レジリエンスにどう結びつくか、テクノロジーと持続可能な成長の共創、そして次世代の日ASEAN連携の担い手育成というテーマが取り上げられる。過去の成果を振り返るにとどまらず、今後数十年の協力のかたちを具体的に描こうとする試みである。

翌9月12日(土)には、文化公演として阿波人形浄瑠璃をお届けする予定である。徳島県に伝わるこの伝統的な人形芝居をシンガポールの舞台で披露するこの企画は、日星関係がビジネスや政策だけでなく、芸術や工芸、そして本物の出会いの喜びによっても育まれることを改めて思い起こさせてくれる。

JUGASではまた、ビデオシリーズ「Singaporeans in 地方」を制作している。東京や大阪といった大都市圏にとどまらず、日本各地の地方に暮らし学んだシンガポール人の経験をシリーズ形式で記録するこの企画は、日本留学という選択肢の多様さと豊かさを次の世代に伝える試みでもある。

おわりに

SJ60という節目は、振り返りの機会をもたらしてくれる。しかしJUGASの55年の歩みを思うとき、頭に浮かぶのは公式の記録よりも、積み重ねられてきたものの手触りである。人生の方向を変えた奨学金、卒業後も続いた友人関係、日本での数年間がなければ違う形になっていたキャリア。

それらは、決して当然のものではなかった。JCCIをはじめ人への投資を選んだ組織と、その投資に価値を見出した人々の双方があって、初めて可能になったことである。言い換えれば、それはまさに福田ドクトリンが国家の次元において求めたものと同じ関係性の、規模は小さくとも本質的な表れだと思う。真摯な交流、相互の敬意、そして長期的な視点に立つ意志。

創立55周年を迎えた今、JUGASは築かれてきたものへの感謝と、次世代への責任の両方を胸に歩み続けている。シンガポールに暮らす日本人の皆さまに、異国で生きることの意味を自身の経験として知るすべての方に伝えたいのは、その共通の経験こそが、これからの協力のための最も自然な出発点であるということだ。

<訳注>

1 https://ascoja.org/about-2/

目次

<特集>


<編集後記>


執筆者経歴

シンガポール日本大学卒業生会(Japanese University Graduates Association of Singapore)の第二副会長を務める。名古屋大学で学士号を取得後、ペンシルベニア大学で歴史学の博士号(Ph.D.)を取得。シンガポール金融管理局(MAS)で、フィンテックおよびデジタル資産分野に従事。

gentansh@gmail.com

シンガポール日本商工会議所

6 Shenton Way #17-11 OUE Downtown 2 Singapore 068809
Tel : (65) 6221-0541 Email : info@jcci.org.sg

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