2026年1月号(No.662)バックナンバー

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特別寄稿 不透明な環境下でも事業拡大意欲は旺盛:2025年度ジェトロのアンケート調査から見る在シンガポール日系企業の経営実態

JAPAN EXTERNAL TRADE ORGANIZATION (JETRO) SINGAPORE REPRESENTATIVE OFFICE
Deputy Managing Director

朝倉 啓介

はじめに

日本貿易振興機構(ジェトロ)は毎年、世界の各国・地域の日系企業(訳注1)に対して、アンケート調査〔「海外進出日系企業実態調査」(以下「本調査」〕を実施しています。2025年度調査は、2025年8月から9月にかけて、海外82カ国・地域の日系企業1万7,708社を対象に、オンライン配布・回収によるアンケートを実施。7,485社より有効回答がありました(有効回答率42.3%)。このうち、シンガポールでは477社より有効回答をいただきました。本誌読者の皆様にもご協力賜りましたこと、改めて厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

本稿では、本調査の最新調査結果から、在シンガポール日系企業の実態を中心に紹介する。今回の調査結果から、米国の追加関税措置など不透明な国際情勢下でも、在シンガポール日系企業の経営状況は堅調なほか、事業拡大意欲も引き続き旺盛な実態が明らかとなった。しかし、人件費の上昇がこれまで以上に課題であることが見て取れる。

黒字と見込む企業の割合が拡大、米国の関税引き上げ措置などの影響は限定的

本調査では、営業利益見込みを尋ねた。在シンガポール日系企業の2025年(1月~12月)の営業利益見込みを「黒字」と回答した企業の割合(66.8%)が最大で、「均衡」(18.5%)、「赤字」(14.7%)が続いた。「黒字」と回答した企業の割は、2022年をピークに2024年まで2年連続で減少していたが、増加に転じた(図表1参照)。

2025年の営業利益が2024年比べて「改善」したと回答した企業にその理由を尋ねたところ、「現地市場(進出国・地域)での需要増加」(41.4%)を選択した企業の割合が最も高かった。「輸出先市場(進出国・地域以外)での需要増加」(36.1%)「現地市場(進出先国・地域)での販売体制強化(製品・サービス・人員の拡充など)」(23.7%)が続いた。

米国の追加関税措置などの影響は依然、限定的だ。しかし、一部には負の影響を及ぼしている。2025年8月15日までに導入された米国第2期トランプ政権による関税引き上げ措置や、これらに対する報復関税措置などが営業利益見込みに与える影響については、「現時点ではわからない」と回答した割合が43.5%と最も高かった。次いで、「影響はない」(36.5%)、「マイナスの影響が大きい」(15.4%)、「マイナスとプラスの影響が同程度」(3.6%)、「プラスの影響が大きい」(1.1%)が続いた。もっとも、「現時点ではわからない」と回答した企業でも、「景気低迷による需要の減少が懸念される」(販売会社A社)、「不安定な関税率により、米国客先から敬遠されるリスク。中国材を使用した製品を受注すること自体のリスク」(商社・卸売業B社)など、先行きを懸念する声が聞かれた。

なお、中国との関連では、「取り扱う製品、狙う市場において、中国企業の影響を大きく受けている」(販売会社C社)、さらには「中国企業の影響力は年々強まっていると感じる」(販売会社D社)との声が聞かれる。本調査では、進出先市場(国・地域)における1番の競争相手として、「地場企業」(26.9%)と回答した割合が最も高く、「中国企業」(24.6%)、「日系企業」(20.5%)が続いた。一部では、「中国品がアジア大洋州地域に流れることにより、過当な価格競争が引き起こされる懸念がある」(化学・医薬E社)など、中国の影響がさらに強まるとの懸念も聞かれる。もっとも、業種によっては、ASEAN展開を加速する中国企業の取り込みを狙う声も聞かれる。「脱中国が加速し、中国企業がASEANへ進出する傾向が強まり、需要が増加すると見込まれる」(商社・卸売業F社)、「中国から東南アジアに進出してくる企業からの仕事を増やす」(運輸業G社)との声が寄せられた。

投資環境面での課題で際立つ人件費の高騰

次に、投資環境面でのリスク(短所)について紹介する。投資環境面でのリスク(短所)を尋ねた質問では、「人件費の高騰」と回答した割合が91.3%で最も高かった。「土地/事務所スペースの不足、地価/賃料の上昇」(52.1%)、「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」(44.3%)、「従業員の離職率の高さ」(29.2%)が続いた。

これら上位4つのリスク(短所)は、2022年以降、順位に変動はない。しかし、時系列で見ると、「人件費の高騰」と回答する割合は年々増加するのに対し、「土地/事務所スペースの不足、地価/賃料の上昇」、「ビザ・就労可取得の困難さ・煩雑さ」、「従業員の離職率の高さ」と回答する企業の割合は減少傾向にある(図表2参照)。

回答割合は減少するも、「土地/事務所スペースの不足、地価/賃料の上昇」、「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」と回答する割合は、他のアジア大洋州地域と比較すると高い(図表3参照)。特に、「土地/事務所スペースの不足、地価/賃料の上昇」については、周辺国・地域のなかでは、最も回答率が高かった。

上述のとおり「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」を投資環境面でのリスクと回答する企業の割合は減少した。ただし、「地元人材の登用を進めている」(一般機械H社、化学・医薬I社)との声が聞かれるなど、何らかの対応を既に取った結果も反映されている。本調査によると、COMPASS制度導入と給与水準引き上げに伴い駐在員数を「既に見直した」企業のうち49.5%が駐在員を減員したと回答。「これから見直す」企業では53.5%が減員すると回答した。しかし、「ある程度日本人駐在員を置く必要がある一方、COMPASS規制の観点で雇用人数を増やすことができない」(金融・保険業J社)と苦慮する声も。将来的な事業運営上のリスクとして残っている。

旺盛な第3国への事業展開意欲、進出先はインドが最大

最後に、今後1~2年の事業展開の方向性について見てみたい。日系企業のうち「現状維持」と回答した企業の割合(50.6%)が最大で、「拡大」(43.9%)が続いた(図表4 参照)。なお、「拡大」と回答した企業の割合は2年連続で上昇した。

「拡大」と回答した理由は、前回調査と比較すると、「現地市場(進出先国・地域)ニーズの拡大」と回答した割合が59.3%と最も高く、「輸出の増加」(28.4%)が続いた。「現地市場(進出国・地域)ニーズの拡大」の具体的な回答を見ると、必ずしもシンガポール市場のニーズ拡大に限らない。「シンガポール建設需要、近隣エネルギー需要の増」(その他非製造業K社)、「アジア市場全域」(情報通信業L社)との回答が寄せられた。

本調査では、シンガポール拠点からの今後(2025年度を含めた3カ年程度)の周辺国をはじめとした海外進出(新規投資、既存拠点の拡充)の全体的な方針について尋ねている(図表5参照)。今後の海外進出(新規投資、既存拠点の拡充)先では、インドと回答した割合が40.0%と、マレーシア(36.5%)、インドネシア(30.6%)、ベトナム(30.0%)などを上回り最大となった。インドについては、「市場ポテンシャルが拡大している。販売体制拡大と同時に現地製造を中期的に計画」(販売会社M社)といった声が聞かれた。

おわりに

ジェトロが実施したアンケート調査結果から、在シンガポール日系企業の経営は、先行きが不透明な中でも引き続き堅調で、ASEAN諸国やインドなど周辺国への展開に意欲的な実態が明らかとなった。一方で、中国企業との競争激化、人件費高騰が一段と経営負担となっている実態、さらには就労査証の発給基準厳格化を懸念する声も聞かれた。

シンガポールについて分析した詳細やアジア大洋州全体の結果などは、ジェトロのホームページ(https://www.jetro.go.jp/jetro/overseas/sg_singapore/reports.htmlhttps://www.jetro.go.jp/world/business_environment/genchihoujin.html)からダウンロードできる。なお、ジェトロは、ASEANには9カ国10事務所、南西アジアには4カ国8事務所(うちインドには5事務所)、オセアニアには2カ国2事務所の拠点がある。各事務所との対面・オンラインでのブリーフィングサービスを提供しているので、第3国・地域展開などにご利用いただきたい(訳注2)。

<訳注>

1  日本側による直接、間接の出資比率10%以上の現地法人、日本企業の支店・駐在員事所。

2 ジェトロ海外事務所による現地事情ブリーフィングのご案内。

https://www.jetro.go.jp/services/briefing.html

目次

<新年にあたって>


<部会長のご挨拶>


<広報委員会から>


<特別寄稿>


<経済展望>


<編集後記>


執筆者経歴

1980年、兵庫県西宮市生まれ。2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2005~2009年)、国際経済研究課(2009~2010年)、公益社団法人日本経済研究センター出向(2010~2011年)、ジェトロ農林水産・食品調査課(2011~2013年)、ムンバイ事務所(2013~2018年)、海外調査部国際経済課(2018~2022年)を経て、2022年7月から現職。主な著書として、『南進する中国とASEANへの影響』(共著、ジェトロ、2007年)、『ASEAN経済共同体』(共著、ジェトロ、2009年)、『FTAの基礎と実践』(共編著、白水社、2021年)など。休みの日は、スキューバダイビング。

シンガポール日本商工会議所

6 Shenton Way #17-11 OUE Downtown 2 Singapore 068809
Tel : (65) 6221-0541 Email : info@jcci.org.sg

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