2026年4月号(No.665)バックナンバー

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東南アジア日系企業における優先リスクや不正トレンドの紹介

DELOITTE & TOUCHE LLP
Senior Manager

戸塚 瑛史

はじめに

Deloitte東南アジアの日系企業サービスグループでは、東南アジアで事業を営まれている日系企業を対象に毎年サーベイを実施している。今回は各社における優先リスクや不正の発生状況について質問をしており、質問ごとの回答結果と考察を以下に記載している。サーベイの基礎情報は次のとおりである。

【サーベイの基礎情報】

・対象国:東南アジア各国等

・サーベイ発信先:上記各国に所在する日系企業子会社

・サーベイ実施期間:2026年1月23日~2月13日

・有効回答数:約250社

優先リスクの傾向

まずは優先して対応すべきリスクは何か、という質問に対する回答結果は以下表の通りとなった。サーベイ対象国すべてとシンガポールの回答を比較する形で表示しており、共通項目も多い一方で、シンガポールならではの回答もあったと分析している。

サーベイ全体回答は「競合他社との価格競争の激化」がトップリスクである一方で、シンガポール各社の回答では「地域、子会社のガバナンス」が一位になった。地域統括機能を有する会社の多いシンガポールならではの結果であり興味深く、寄せられた意見を見ていくと「各国に所在する関係会社ごとに内部統制のレベルが大きく異なる」「駐在員が担っていた業務をローカル従業員にシフトする取組を進めているが、内部統制やガバナンスのレベルを落とさず、ローカライゼーションを進めることが難しい」といった声が多数あった。それぞれの国が独自の言語や文化をもつ東南アジアにおいては、共通言語となる「業務/オペレーション」を標準化しながらローカライゼーションを進めていくことが重要な点であるが。また、ローカル社員に業務を任せると、言語面やビジネス慣行面で業務が見えづらくなる可能性が上昇することを理解したうえで、職務分掌の在り方や業務モニタリングの仕組み、報告の頻度や方法など、適切な内部統制の構築も同時に検討していく必要がある。

それ以外のリスクでは、「人件費の高騰」「原材料価格やエネルギー価格の高騰」「為替や金利の著しい変動」など、コストの上昇や大きな変動を懸念する声がサーベイ全体、シンガポール各社共通で上位のリスクとなった。また、「人材流出、人材獲得の困難による人材不足」は過去から継続して上位のリスクとして挙げられており、日系企業のみならず中韓企業等との人材獲得競争が加速しているという声が今年のサーベイでは目立った。今後は必要人材を確保するためにも、過去から当たり前に継続していたマニュアル中心のオペレーションの改革が必要、といった声も聞こえるようになり、AI時代に乗り遅れることないように、システム投資やデジタルトランスフォーメーションを通じたデータドリブン経営の取組が東南アジアでも加速してきている様子が伺える。

最後に「サイバー攻撃・ウイルス感染等による情報漏えいや大規模なシステムダウンに伴うリスク」も上位に来ており、これは全体回答とシンガポール回答で違いは見られなかった。昨今のサイバーアタック関連のニュースや、業務のシステム化・IT化が加速しつつあることに照らし、ITコントロール/システムのセキュリティが一層重要になってきていることを反映した結果になったと分析する。

不正リスクの傾向、発覚経緯や予防策の傾向

不正リスクに関しては以下の結果となり、年々リスクに感じている回答者の割合が増加している。国別にみるとシンガポールは30%で最も低く、インドネシアが70%超で最大となった。不正の種類に関しては、経費関連不正が従来トップだったが、直近の結果では購買関連不正が一位となった。一方で経費、在庫関連不正も購買関連不正と1-2%程度しか選択率は変わらず、不正種類が多様化していることを示唆する結果となった。

2604 不正リスクが「ある」と回答した回答者の割合(全体回答)

不正の発覚経緯は過去からの回答と同様に「内部通報」が圧倒的に高く、次いで「内部監査」の順序となった。適切な内部通報制度の整備・運用が早期の不正や異常検知のために欠かせないインフラとなっており、特に昨今は匿名性を維持するためのWeb通報チャネルや、通報先として社外専門家を登録する会社が増えてきている。今一度自社の内部通報制度の現状と実効性を評価し、改善を図ることが肝要である。「内部監査」も社内の独立の立場から批判的に執行業務を監査・監督する強力な機能を持っているため、内部監査を通じての不正発覚も不正発覚経緯の上位となった。裏を返すと、内部監査の「実効性担保」は欠かせず、内部監査メンバーは対象会社の所在国、関連する法制度やレギュレーション、営むビジネスに十分精通しているか、リスクアプローチを徹底した手続を十分な計画・準備の下実施できているか、現地の言語や商慣習を理解した上で深度ある内部監査が実行できているか等を再評価することが必要ではないかと考える。一方で「外部監査」や「税務調査/監督官庁の指摘」による不正発覚は少ない結果となった。ランキングを見ても内発的なガバナンス強化の施策による不正発覚が上位を占めているため、「外部監査で適正意見が表明されている=自社には不正がない」と判断せずに、内部牽制の仕組みを継続的に改善していくことが肝要である。しかし、リソース不足や知見のアップデートが十分でないこと等から、内部統制やガバナンス構造が、過去に構築してからそのままになっている事例も少なくない。外部環境や自社のビジネスは過去から変化しており、業務の担い手である社員も交代しているので、リスクの所在や内部統制のポイントの定期的な振り返りと見直しが必要である。

不正の予防策

回答各社において不正の予防として導入している施策は次のとおりとなった。不正防止のトレーニングや、内部監査、内部通報関連の対策が上位に来ている。また、「取引データの分析による異常・不正検知」など、データを内部統制/ガバナンスに活用する取組も増えてきている。その一方で、不正発覚経緯として上位にきている「担当者の異動・退職等」は、業務ローテーションを不正予防策にまで落とし込めていないとする回答者が多く、job型採用の多い東南アジアにおいては、業務ローテーションを不正予防策として運用することが容易ではないことを示唆する結果となった。

〈出典〉上記表は全てDeloitte Southeast Asia日系企業サービスグループで実施のリスクサーベイ結果より作成

最後に

本稿では、弊社で実施しているサーベイを基に優先リスクや不正についての分析結果と考察を行った。特に東南アジアにおいては、不正は頭の痛い問題であり、どんなに予防をしても不正を根絶することは難しいかもしれない。むしろ「不正は必ず存在する」という意識のもと、不正を早期検知する仕組みを整えること、また、不正を検知した際に有効なアクションを早期にとることが重要であるといえよう。本サーベイが会員の皆様の検討の助力になることを祈念し、本稿を締めくくる。

目次

<特集>


<編集後記>


執筆者経歴

戸塚 瑛史(とづか あきふみ)

大学卒業後、デロイトトーマツに入所。公認会計士として会計監査業務や会計/内部統制/ガバナンスのアドバイザリー業務に従事し、2022年よりシンガポールに駐在赴任。現在はデロイトシンガポールのアシュアランス部門に所属し、東南アジア全域の日系企業向けのアドバイザリー業務をリードしている。

aktozuka@deloitte.com

シンガポール日本商工会議所

6 Shenton Way #17-11 OUE Downtown 2 Singapore 068809
Tel : (65) 6221-0541 Email : info@jcci.org.sg

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