D2C:顧客接点とデータ主導権を重視するモデル
D2Cは、保険会社が自社のWebサイトやモバイルアプリを通じて、見積、申込、契約管理、請求といった一連のプロセスを顧客に直接提供するモデルである。本モデルの最大の特徴は、顧客接点および顧客データを自社で一貫して管理できる点にある。戦略的観点では、D2Cはブランド構築、顧客理解の深化、商品・価格・UXの迅速な改善といった点で優位性を持つ。一方で、集客コストの負担や、認知獲得に時間を要する点は構造的な課題となりやすい。そのため、D2Cは既存顧客基盤を有する企業や、シンプルで標準化された商品を軸に、効率的なデジタル獲得を狙うケースと親和性が高い。
B2B2C:顧客基盤を活用したスケール拡大型モデル
これに対しB2B2Cは、銀行、EC、モビリティ、プラットフォーム企業など、既に顧客接点を有するパートナーを通じて保険を提供するモデルである。保険会社にとっては、短期間での顧客リーチ拡大や、利用シーンに紐づいた提案が可能となる点が戦略的なメリットとなる。特に東南アジアでは、日常的に利用されるデジタルサービスが生活インフラとして定着しており、保険を「必要なタイミングで提示する」B2B2Cモデルは、未加入層へのアプローチ手段として有効性が高い。一方で、顧客接点の主導権はパートナー側にあり、手数料設計、UX設計、データ利用範囲などを巡る調整が競争力に直結する。
Embedded Insurance:B2B2Cの高度化形態
B2B2Cモデルの発展形として、近年注目を集めているのが Embedded Insurance である。このモデルの有効性は、東南アジアの複数市場で実証されつつある。これは、保険を単独の商品として販売するのではなく、移動、購買、旅行といった主たるサービスの利用プロセスに組み込み、顧客の行動文脈に即して提供する流通モデルである。Embedded Insurance では、保険加入を意識させない自然な導線設計や、既存サービスとのシームレスな連携が競争力の源泉となる。そのため、従来の販売チャネルや業務プロセスに依存せず、デジタル前提で商品・オペレーションを設計できる新興プレーヤーにとって、有力な成長戦略となり得る。
具体的な事例として、インドネシアではデジタル主導型の保険会社である Oona Insurance が、デジタル決済サービス GoPay と連携した保険提供を行っている(4)。アプリ内に手頃な重大疾病保険や健康保険への加入導線を組み込むことで、3,000万人を超えるユーザー基盤へのアクセスを実現している。なお、Oona Insurance および GoPay を提供する GoTo グループはいずれも PEファンドであるWarburg Pincus の支援を受けており、投資先企業間の連携を通じたエコシステム戦略の一例としても位置づけられる。
この事例が示すように、Embedded Insurance は短期・小口・定型的な商品との親和性が高く、加入プロセスを大幅に簡素化できる点に強みを持つ。一方で、説明責任や同意取得、保険金請求時のサポートといったガバナンス設計が、顧客信頼および持続的な事業運営の観点から重要となる。戦略的には、「どこまでをパートナーに委ね、どこを保険会社が担うのか」という役割分担を明確に設計できるかが、成否を左右する要因となる。
戦略的示唆:モデル選択は目的起点で設計する
D2CとB2B2Cは優劣の関係ではなく、企業の戦略目的によって選択・組み合わせるべき手段である。顧客データの蓄積や中長期的な関係構築を重視する場合はD2Cが有効であり、スピードとスケールを重視する場合はB2B2CやEmbedded Insuranceが有力な選択肢となる。東南アジアにおけるデジタル保険流通では、単一モデルに固執するのではなく、商品特性、市場成熟度、規制環境を踏まえたポートフォリオ型のチャネル戦略が、持続的な成長に繋がると考えられる。