アジア展開の現在地:「進出」から「共創」へ
日本企業のアジア展開における課題は、もはや「進出するか否か」ではありません。問題は「どのように進出するか」、そして「現地でどう受け入れられる形に変えるか」にあります。
シンガポール・マネジメント大学の研究者Gabrielle Tan氏は、弊社のインタビューで興味深い指摘をしていました。今やアジア市場では、完成した製品をそのまま持ち込むのではなく、現地パートナーと共にその土地に合わせて創り直す姿勢が求められているというのです。
この言葉は、商品展開における本質的な変化を捉えています。求められているのは、現地の文化的文脈を一次情報から深く理解し、日本的な価値を「翻訳」する力です。単なる言語の置き換えではなく、商品の意味や体験そのものを、現地の人々が自然に受け入れられる形に再構築する——この「翻訳」こそが、今日のアジア展開における最重要課題となっています。
特にアジア市場においては、この傾向が顕著です。経済成長と共に消費者の嗜好は多様化し、単に「日本製だから良い」という時代は終わりを告げました。購買の意思決定は価格や品質だけでなく、意味や背景への共感で動くようになってきました。重要なのは、「どんな商品を売るか」より先に、「この土地で語るべきストーリーは何か」を捉えることです。
現地の人々が求めているのは、自分たちのライフスタイルに溶け込み、文化的な共感を呼ぶ商品やサービスです。この変化に対応するためには、日本側の一方的な価値提供ではなく、現地との共創が不可欠になっています。
こうした背景の中、琉球泡盛のグローバルブランディングを目指した沖縄県のプロジェクトは、まさにこの課題に真正面から取り組んだ事例です。認知度ゼロの市場で、日本酒でも焼酎でもない独自のお酒をどう位置づけ、どう受け入れてもらうか。その試行錯誤から見えてきたのは、アジア展開における新しい「最適解」の形でした。


