シンガポール日本商工会議所の皆様、この度、JCCI監事および生活産業部会の部会長に就任いたしました日経グループアジア社社長の下田と申します。4月1日付で当地に赴任してきたばかりですが、このような重責を負うこととなりました。これまで海外はドイツ(フランクフルト)、英国(ロンドン)を経験してきましたがアジア駐在は初めてです。どうぞよろしくお願いいたします。
現在、担当地域のお客様にご挨拶回りをさせていただいている最中ですが、日経アジア社はどんな会社なのですか?というご質問をよく受けます。弊社は読んで字の通り、日経新聞のアジア地域(中国など一部地域除く)におけるビジネスを統括する会社です。日経電子版や英文ニュースのNikkei Asia、英文情報プラットフォームの「日経スカウトアジア」などの販売、および広告やイベント開催などを手掛けています。政治・経済のセンシティブな情報を扱うことの多い編集部門は別組織になっており、厳格な情報管理体制を敷いています。電子版やNikkei Asiaは個人で契約されている方も多いかと思いますが、法人契約であれば様々なメリットをご提案できますので是非ご相談ください。
私自身は長く編集部門に身を置いてきました。日経に入社したのが平成4年(1992年)。配属先は流通経済部という小売業界の取材をする部署で、関東地区の中堅・中小スーパーの取材を担当させられました。当時は「営業利益」と「経常利益」の違いもわからず、わずか10行程度の短い記事を書くのに一晩かかり、先輩記者に見てもらった原稿は固有名詞以外ほとんどすべて書き直されたという苦い思い出があります。
入社当時は政治家や警察の取材にあこがれていたので、街中の小売店の経営者に取材をするという現実とのギャップに苦しみましたが、いざ取材のためにいろいろな経営者にお話を伺うようになると、これが想像以上に面白く知的好奇心を刺激してくれました。どの経営者も情報収集に熱心で、どういう値付けをすればお客様に喜んでくれるのか絶え間なく分析し、卸業者との駆け引き、競合スーパーの買収交渉など、規模は小さいながらも企業経営の醍醐味を学ぶことができました。
その後も私は企業取材記者の道を歩み続け、トヨタ自動車グループや東芝、キヤノン、第一三共といった国内大手の企業を取材し、フランクフルト駐在時(2009~13年)にはフォルクスワーゲンやBMW,シーメンス、フィリップスといった数多くの企業取材を経験。ロンドン時代(19~22年)はヨーロッパ、中東、ロシアに点在する支局を統括する欧州総局長として国際報道にも携わり、ブレクジットや英エリザベス女王逝去、ウクライナ戦争などの取材を指揮してきました。ロンドン駐在の最後の一年は日経ヨーロッパ社という欧州ビジネス統括会社の社長に転身。その後東京に帰任しシンガポールに赴任する直前まで、日経のグローバルビジネス部門で、2015年に日経が買収した英フィナンシャル・タイムズとのパートナーシップを日本側で管理する業務を主に担当していました。
私のキャリアの原点は企業取材です。30年超の日経でのキャリアを通じて思うのは、日本経済の強みは、グローバルに活躍する企業の活動力にあるという点です。シンガポールでも取材する側とは全く反対の企業経営をする立場に身を置くことになりましたが、その違いを楽しみつつ、シンガポールにおける日本企業の存在感を高めていくことに少しでも貢献できればと思っています。