近年話題の感染症
エムポックス:
2022年5月以降の世界的なエムポックスの流行は、IIb型が原因と報告されている。重症化しやすいとされるⅠ型の患者は、アフリカのコンゴ民主共和国、ブルンジ、ウガンダなどで引き続き発生し、2024年1月以降アフリカ以外の少なくとも17カ国でも54例のⅠ型患者が報告されている(8)が、2022年から2025年3月20日までにシンガポールで確認された72例は全てIIb型だった。IIb型は比較的症状が軽く、シンガポール国内における公衆衛生上のリスクは現在のところ低いと考えられているが、過去21日以内に流行地(コンゴ民主共和国や周辺国)への渡航歴があり、原因不明の発疹とインフルエンザ類似症状(発熱、頭痛、背部痛、倦怠感、筋肉痛、リンパ節の腫れ、脱力感)が見られる場合は速やかに病院を受診する。シンガポール国内では痘そうおよびエムポックスのワクチンが承認され、濃厚接触者に対する暴露後接種が可能である。
ヒトメタニューモウィルス(hMPV):
2001年に発見されたウイルスで、小児の急性呼吸器感染症の原因として重要な病原体である。生後2歳までに大半の小児がRSウイルスに感染するが、hMPVへの感染はやや遅く、大多数の小児への感染が完了するのは5~10歳までとされている。RSウイルス感染症とともに、高齢者等の成人での発生もある。多くは風邪に似た軽い症状だが、乳幼児や高齢者は気管支炎や肺炎を引き起こすことがあり、肺炎などの際には呼吸器パネルなどで検査を行うこともある。ワクチンはなく、マスクや手洗いなどの予防策が重要である。2024年末に中国でhMPVの増加が報じられたが、北半球の流行レベルとして予想される範囲内と結論された。
帯状疱疹:
水痘が治癒した後、神経に潜伏しているウイルスが、免疫低下や加齢によって再活性化して生じる。2014年10月からの水痘ワクチンの定期接種化により水痘が激減した一方、帯状疱疹は全ての年代で徐々に増加し、特に20~40 代の発症率の著しい上昇がみられる(9)。若年者では帯状疱疹後神経痛のリスクは高くないが、発症後早期に抗ウイルス薬を開始する。もともと帯状疱疹発症率は50代以上で急増し、帯状疱疹後神経痛の発症率も高くなる。このため50歳以上や、免疫力が低下して帯状疱疹にかかるリスクが高いと考えられる18歳以上の者は、帯状疱疹ワクチン接種を検討する。帯状疱疹の特徴は、体の片側の神経に沿った水疱を伴う発疹だが、発疹が出現する前に痛みやかゆみが先行することが多いため、発症後間もない時期は診断に苦慮する。自宅での注意点として、入浴時などに全身を観察し、皮膚に異常があれば受診すること、特に顔面や頭部は顔面神経麻痺や目、耳の障害を引き起こすことがあるため、耳鼻科専門医と連携しながら治療が必要となる。