(1)ASEANにおけるJPOの取組
JPOは、日系企業のグローバルな事業活動支援のためにASEANへの知的財産協力を強化しています。2012年2月に開催した第1回日ASEAN特許庁長官会合では「東京知財声明」として、JPOがASEANの経済発展に向けた知的財産保護強化に協力していくことを確認しました。その後も日ASEAN特許庁長官会合を定期的に開催1し、JPOのASEANへの知財協力を毎年レビューしつつ協力プログラムを策定しています。具体的な協力内容としては、ASEAN地域における研修の提供を中心とする人材育成への協力、地域の課題に即した調査の実施・報告やセミナーの提供などが挙げられます。このような協力がJPOと各国との間でスムーズに進むよう、現地で必要な調整を行うことが我々地域アタッシェのミッションとなります。
また、JPOの当地における最近の活動例として、今年9月にシンガポールで開催した「JAPAN GREEN TECH SHOWCASE」2をご紹介します。この対面イベントでは、グリーン技術や気候テックに関する知財を有する日本のスタートアップ企業と、現地の事業会社、投資家、政府機関などから多くの参加者を得て、両者のマッチング・連携を促進することを目的に様々な交流が行われました。ここではまさに先に述べた知財の様々な働きが実感され、当地における知財活用の可能性を示すものとなりました。
(2)ASEANにおける知財活用に向けた動き(模倣品対策)
我々がASEAN地域で活動する日系企業の知財活動を支援していることは先に述べた通りですが、当該活動において最も大きな課題は模倣品への対策です。ここで「模倣品」とは知財権を侵害する物品のことを意味して用いています。
従前から模倣品流通の問題は、この地域でビジネスを展開する企業等を悩ませる課題の一つでした。このことを示す例として、米国通商代表部(USTR)が毎年公表するスペシャル301条報告書が挙げられます。この報告書は、1974年米国通商法182条に基づき、知的財産の保護等が不十分な国を特定するべく作成されているもので、インドネシアは近年継続して「優先監視国」に特定され、タイ、ベトナムは「監視国」に特定されています。各国ではこのような状況を改善するため、特に行政による模倣品の取締りが比較的有効に機能している例が多くみられます。そのため、日本の企業や専門家による数々の訪問団とともに、ASEAN各国の知財庁や警察、税関その他取締機関との意見交換や申し入れにより知財保護環境の改善を促してきました。
その活動の一つとしてIIPPF(国際知的財産保護フォーラム)3をご紹介します。これは、日本国外における知的財産権侵害問題の解決を志向する日本企業・団体の集まりで、ジェトロが事務局を務める官民協力フォーラムとなっています。地域や特定のテーマに焦点を当てる5つのプロジェクト(PJ)が活動しており、我々ジェトロ・シンガポールはASEANを含むアジア大洋州を活動領域とするアジア大洋州PJと密に連携しています。昨年度はIIPPFの訪問団としてタイ及びフィリピンを訪問し、知財庁や警察、税関等との意見交換を行ったほか、関係の行政職員を招いて真贋判定セミナー(真正品と贋物(模倣品)とを区別するための研修)を提供しました。今年はベトナムとインドネシアを訪問する予定です。
近年の模倣品対策における最も重要な観点は、ECプラットフォーム(オンラインショッピングサイト)の台頭とオンライン流通の拡大です。インターネット、スマートフォンの普及や、オンラインサービスの進展、各国の政策方針、さらにはコロナ禍などが相まって、オンライン市場での経済活動の規模が大きく進展していることはよく知られる通りです。これに伴い、当然ながら模倣品流通の舞台もオンラインの占める割合が増大しており、オンラインビジネス特有の新たな対策の重要性が高まっています。一つの対策として注目されるのはECプラットフォームとの連携です。昨年度ジェトロでは、ASEANとインドを対象とし、インターネット上の模倣品対策に関する調査報告書4を公表しました。この報告書では、各国におけるオンラインでの模倣品対策に必要な情報を網羅し、特に各ECプラットフォームが運用する削除申請手続き(模倣品出品情報の削除を求める手続き)などをまとめているので、ご関心のある方は是非ご参考にしていただければと思います。また、オンラインに関連する特徴的な取組みとして、タイ・フィリピンでのECプラットフォームに関連するMoU(協力の取決め)をご紹介します。各国において、政府の主導により知財権者とECプラットフォームとがMoUを締結し、密に連携することによってECプラットフォーム上からの模倣品の排除に取り組んでいます。このような動きはASEANの他の国にも広がる気配を見せており注目されるところです。
(3)東南アジア知財ネットワーク・シンガポールWG
東南アジア知財ネットワーク(SEAIPJ)5は、東南アジア地域における日系企業の知財活動を支援する場として2012年3月1日に発足しました。東南アジアにおける知財問題にご関心のある日系企業の方々をメンバーとし、知財分野での協業(当局との意見交換等)や情報収集・共有等の活動を実施しています。ジェトロは同ネットワークの事務局を務めています。
このSEAIPJにおいて、タイWG、ベトナムWG、シンガポールWGが具体的な活動を行っており、ジェトロ・シンガポールはシンガポールWGの事務局となります。シンガポールWGは、主にシンガポール駐在の日系企業担当者や知財専門家等が参加する定期的な会合により、当該地域における知財関連の情報共有の場となっています。ご関心のある方々は是非ご連絡をいただければと思います。お試し参加も大歓迎です。