2025年8月号(No.657)バックナンバー

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ゆめ・つなぐ・みらい ―大阪・関西万博シンガポールパビリオンが描く未来への道―

SINGAPORE TOURISM BOARD
Manager, Japan, International Group & World Expo

猪股 映理

はじめに

2025年4月13日、大阪市臨海部の人工島、夢洲を舞台に、世界中の英知と先端技術を結集する「大阪・関西万博」が開幕いたしました。この国際的な祭典は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」として、人類共通の課題解決と未来社会の「共創」を目指すものです。シンガポール政府観光局が建設および運営を所管するシンガポールパビリオン「ドリーム・スフィア(夢の球体)」は、この壮大なビジョンの一翼を担い、シンガポールの未来志向の抱負を世界に発信する重要な拠点として、連日多くの来場者をお迎えしております。

当パビリオンのテーマは、日本語では「ゆめ・つなぐ・みらい」と名付けられています(英語では「Where Dreams Take Shape」)。これは、今日の行動が次の世代の未来を築き、現在と未来をつなぐこと、そして人々が手を取り合って未来を築いていく機会を示唆しています。開幕から約3ヶ月、おかげさまで当パビリオンは累計来場者数100万人を突破(2025年7月16日プレスリリース発行) するという、大変喜ばしいマイルストーンを達成いたしました。この大きな反響は、シンガポールと日本の間の深い友好関係、そして未来に対するシンガポールのビジョンへの国際的な関心の高さを物語るものと確信しております。本稿では、シンガポールパビリオン「ドリーム・スフィア」がどのようにして「ゆめ・つなぐ・みらい」の物語を紡ぎ、来場者の皆様に感動とインスピレーションを提供しているのか、その展示内容と今後の展望についてご紹介いたします。

「ドリーム・スフィア」が描く未来への道

シンガポールパビリオン「ドリーム・スフィア」は、シンガポールの愛称である「リトル・レッド・ドット(小さな赤い点)」から着想を得た、高さ約17mの印象的な球体構造を特徴としています。この球体は、約1万7千枚のリサイクルアルミニウム製の「ドリーム・ディスク」で覆われており、それぞれのディスクが多様な個々の夢を象徴しています。このデザインは、日本の絵馬と青海波の波模様からもインスピレーションを得ており、参加と共創のコンセプトを体現しています。ドリーム・スフィアは3階建てで、総床面積約1,766m²、最高部は17mの高さを持つ構造です。

当パビリオンの設計と運営において、持続可能性は中心的な要素です。屋上には太陽光発電パネルが設置され、会期中毎日約15,000kWhの再生可能エネルギーを生成し、パビリオンの消費エネルギーを相殺する計画です。これは、最大約77台の電気自動車に電力を供給できる量に相当します。また、効率的な節水型点滴灌漑の採用により、水の使用量を約60%削減しています。これは、1日あたり500mlボトル約2,800本分の節水に相当します。パビリオンは、万博終了後に解体・再利用が容易な設計となっており、将来的にも環境負荷を最小限に抑えることを目指しています。これらの取り組みは、シンガポール政府の持続可能な開発ロードマップである「シンガポール・グリーン・プラン2030(Singapore Green Plan 2030)」と深く連携しており、革新(Innovation)、回復力(Resilience)、持続可能性(Sustainability)、包摂性(Inclusivity)といったシンガポールの未来を形作る主要な原則を具体的に示しています。

パビリオンの内部では、シンガポールの情熱と創造力によって描かれた夢を現実にする大胆で革新的な取り組みを、シンガポールの若手アーティストが手掛けたインタラクティブなマルチメディアやインスタレーション作品を通して体験いただけます。ジェロルド・チョン(Jerrold Chong)氏、マーク・ウィー(Mark Wee)氏、メリッサ・タン(Melissa Tan)氏、アシュリー・ヨー(Ashley Yeo)氏、ズル・マハムード(Zul Mahmod)氏、イップ・ユー・チョン(Yip Yew Chong)氏といった才能あるシンガポール人アーティストたちが、シンガポールの多様で未来志向の夢を反映した没入型空間を創造しています。

展示は大きく3つの章に分かれ、「ゆめ・つなぐ・みらい」のタグラインを強調しています 。

  1. 第1章では、アニメーションやアート・インスタレーションを通じて、シンガポールから広がる夢、そして共有された大きな志と努力によって、いかに多くの夢が生まれる場所であり続けるかを紹介します。
  2. 第2章では、「シティ・イン・ネイチャー(自然の中の都市)」というシンガポールのビジョンに基づき、人々が動植物と調和して共存する都市づくりを目指すシンガポールの取り組みを、ペーパーアート・インスタレーションやサウンド・インスタレーションを通して表現しています。
  3. 第3章では、来場者自身が参加できるインタラクティブな展示「ドリーム・リポジトリ(夢の集まる場所)」が設けられています。ここでは、来場者の皆様が自身の未来への夢をデジタルキャンバスに描くことで、世界中の夢が少しずつ集まり、未来に変化をもたらしていく様子を体験できます。

また、パビリオン最上階には、シンガポール政府の推進する「City in Nature(自然の中の都市)」ビジョンを具現化した「ドリーム・フォレスト」が広がっています。

来場者の皆様には、シンガポールの豊かな食文化も存分にお楽しみいただける空間をご用意しています。「Shiok!Cafe(シオック!カフェ)」では、シンガポール名物のチキンライス、チキン・サテー、ラクサといった本格的な料理をご提供し、シンガポールで「美味しい!」を表す「シオック!」という言葉を体験いただけます。カフェ内では、シンガポールの多様なコミュニティを祝福し、多様なコミュニティ(Nature Society Singapore、SG75、SG Enable、シンガポール日本人会)から寄せられた60の「夢」が、ドリーム・スフィアの外壁を覆う赤いディスクに印刷され、展示されています。

最上階の「クラウド・バー」では、シンガポール・スリングやクラフト・ジン等のカクテルドリンクをお楽しみいただき、シンガポールの活気あるナイトライフの一端に触れることができます。隣接する「ドリーム・ブティック」では、シンガポール政府観光局の公式マスコット「マーリー(Merli)」のさまざまなオリジナルグッズをはじめ、数々のシンガポールを代表するブランドによるユニークなお土産など、多彩な商品を取り揃え、シンガポールパビリオンでの体験や思い出をお持ち帰りいただく、観光としての親和性を取り込んでおります。

そのほか、グランド・オープニングでオープニング・パフォーマンスを披露した、受賞歴を持つシンガポールのボーカル・アンサンブル「アイランド・ボイセズ」を皮切りに、万博閉幕までに10組のアーティストが来日し、躍動感あふれる音楽とパフォーマンスをお届けしてまいります。

今後の展望:日本とシンガポールの絆を深める

シンガポールパビリオンは、単なる展示の場に留まらず、ビジネス、イノベーション、文化交流を促進するプラットフォームとしても機能しています。5月から7月にかけては、「持続可能で革新的な都市ソリューション」と「ライフスタイル」をテーマに、ビジネスイベントが多数開催されました。JTC(ジュロン・タウン・コーポレーション)が主催するプログラムでは、シンガポールのスマートで持続可能なイノベーション地区推進の経験が紹介され、日本のステークホルダーとの間で深い二国間協力の可能性が示されました。また、シンガポール展示会・会議局( Singapore Exhibition & Convention Bureau, SECB)と日本貿易振興機構(JETRO)シンガポールとの間でMICE分野での3年間の協力覚書(MOC)が締結されるなど、両国間の経済関係は一層強化されています。

当パビリオンは、日本とシンガポールの外交関係樹立59周年を迎えた2025年4月26日にグランドオープニングセレモニーを実施いたしました。この記念すべき日には、大阪・関西万博のために特別に品種改良した新種の蘭「Dendrobium EXPO 2025 Osaka Kansai Japan」をはじめ、日本とシンガポールの友好関係を象徴する特別な蘭が展示されました。

今後、2025年8月24日(土)には、シンガポールパビリオン・ナショナルデーイベントが開催されます。この日は、万博という国際的な祭典の場でシンガポール独立60周年(SG60)という特別な年を祝うイベントであり、これは、多文化主義と開放性を体現するシンガポールの国家としての歩みを象徴するものです。このナショナルデーイベント自体は招待制となりますが、同ナショナルデーイベント月となる8月は、月内を通し、パビリオン内で来場者と一緒に盛り上げる数々の小イベントを用意しています。

1970年の大阪万博は、シンガポールが独立国家として初めて参加した万博でした。そして今、半世紀以上の時を経て、再びこの大阪の地で万博に参加し、長きにわたる日本とシンガポールの友好の歩みを象徴する機会となりました。特に、記念すべきシンガポール建国60周年(SG60)という年をこの日本の地で祝う機会に巡り合うことに、深い縁を感じています。来年には日本とシンガポールの外交関係樹立60周年(SJ60)も控えており、この大阪・関西万博での出会いが、両国のこれまでの歩みとこれからの未来への架け橋となることを願っています。

後列左から

Kingsmen Exhibitsグループマネージングディレクター アンソニー・チョン様、シンガポール政府観光局 会長 オリヴィエ・リム ご配偶者、在名古屋シンガポール共和国名誉総領事 川浦 康嗣 様 ご配偶者、在名古屋シンガポール共和国名誉総領事 川浦 康嗣 様、在大阪シンガポール共和国名誉総領事 島野 容三 様、シンガポール政府観光局 長官 メリッサ・アウ、堺市 市長 永藤 英機 様、愛知県知多郡美浜町 町長 八谷 充則 様、シンガポール国立公園局長官 ホァン・ユーニン様

*前列左から

シンガポール政府観光局 会長 オリヴィエ・リム、日本国際博覧会政府代表 羽田 浩二 様 ご配偶者、日本国際博覧会政府代表 羽田 浩二 様、大阪府 副知事 山口 信彦 様、駐日シンガポール共和国大使兼シンガポール陳列区域政府代表 オン・エンチュアン、駐日シンガポール共和国大使兼シンガポール陳列区域政府代表  オン・エンチュアン ご配偶者、大阪市 副市長 高橋 徹様、日本国際博覧会協会 事務総長 石毛 博行様

おわりに

シンガポールパビリオン「ドリーム・スフィア」は、その革新的な建築デザイン、多角的なインタラクティブ体験、そして持続可能性と包摂性への揺るぎないコミットメントを通じて、「ゆめ・つなぐ・みらい」というテーマを具現化しています。当パビリオンは、単なる展示施設ではなく、文化外交、経済促進、国際協力といった多面的な国家目標を達成するための戦略的なプラットフォームとして機能しています。

この「ドリーム・スフィア」が、来場者の皆様にとって、シンガポールの活力と未来へのビジョンを肌で感じ、自身の夢を再認識し、より良い未来を共創するためのインスピレーションを得る場となることを心から願っております。大阪・関西万博の会期中、ぜひシンガポールパビリオンにお越しいただき、シンガポールが描く未来への道を共に歩んでいただけますと幸いです。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げております。

目次

<特集>


<着任のご挨拶>


<編集後記>


執筆者経歴

猪股 映理(いのまた えり)

香港生まれ、シンガポール育ち。上智大学卒。2017年よりシンガポール政府観光局 日本支局にて勤務開始。

シンガポール日本商工会議所

6 Shenton Way #17-11 OUE Downtown 2 Singapore 068809
Tel : (65) 6221-0541 Email : info@jcci.org.sg

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