2026年2月号(No.663)バックナンバー

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シンガポールの食市場と日本食輸出の取組

EMBASSY OF JAPAN IN SINGAPORE
Second Secretary

潮田 遼

はじめに

はじめまして。在シンガポール大使館で食品の担当をしている潮田と申します。今回の記事では、私の主要ミッションの一つである日本食の輸出促進についてご紹介をしたいと思います。JCCIには食品に直接関わらない企業の方も多くいらっしゃると思いますが、当地のシンガポール人と話す中で、日本食の話題になることは多いのではないかと思います。本記事が皆様のシンガポールにおける活動の一助になれば幸いですので、お時間のあるときにお気軽に読んでいただけると嬉しく思います。

日本の食品輸出の現状

まず、日本産の農林水産物・食品の輸出の現状について見ていきたいと思います。日本から海外への食品の輸出額は2012年の4,497億円から一貫して増加しており、2021年には1兆円を突破、2024年には1.5兆円を超える水準となっています1。この背景には円安の影響だけではなく、成長を続ける海外マーケットを獲得するため、日本の生産者や流通業者が輸出へ本格的に取り組み始めたことも大きいと感じています。

シンガポールにおける食品市場の現状

シンガポールには数多くの日本食レストランがあり、日系・現地系を問わず、小売店に行けば日本産の食材を簡単に見つけることができるなど、日本産食品の人気は非常に高いと言われています。シンガポールの人口は約600万人と、マーケットとしては決して大きくはないものの、国民の所得は非常に高く、高品質・高価格な日本産食品の有望な輸出先となっています。実際、日本産食品の輸出先としてシンガポールは世界第8位の557億円(2024年実績)2であり、日本にとって重要な輸出先です。

一方で、シンガポールの飲食業界は、主に外食需要の低迷で苦しい状況であると言われています。2025年第二四半期の外食売上高は前年比6%減少し、また、2024年には3,000店以上のレストランが閉店したと報道されています3。レストランから卸業者への支払遅延も増加しているようであり4、業界全体としてキャッシュフローの悪化が懸念されています。実際に食品業界の方と意見交換をすると、日系・非日系を問わずこの状況は共通しているようです。その要因として、コロナ禍が終わりシンガポール人が海外旅行にどんどん行くようになったこと、更に物価高の影響により、シンガポール国内での節約志向が高まっていることなどが挙げられています。また、2026年末までにWoodlands – Johor Bahru間の高速鉄道(RTS LINK)が開業する予定5であり、それに伴いシンガポールでの食需要が減少することも懸念されていました。

このように、シンガポールの食市場は好調とは言えない状況ですが、そのような中でどのように日本産食品の需要を伸ばし、日本からの輸出を増加させるのかが我々にとって大きな課題です。特に、シンガポールは既に日本食が浸透した成熟市場と言われる中、更に輸出を拡大させるためには、いかに新たな需要を開拓するのかが重要になると考えています。次からは、具体的に大使館としてどのような活動を行っているのかについて紹介をさせていただきます。

シンガポールにおける日本食品の輸出増加に向けた取組の紹介

日本食の輸出増加に向けて、大使館と日本貿易振興機構(JETRO)とで「輸出支援プラットフォーム(輸出支援PF)」というチームを組み、それぞれの強みを活かして活動を行っています。輸出支援PFとして今年度に実施した事業から2つ、ご紹介させていただきます。

・Google Singaporeにおける日本食フェア

2025年6月に、Google Singapore(APAC拠点) のカフェテリアにて、日本食フェアを1週間開催しました。Googleは約3,500人のシンガポールオフィス社員の働く満足度を高め、社員同士の交流を促すうえで、食を非常に重視している企業です。本イベントでは、①現地のミシュラン星付き日本人シェフとGoogle社食シェフのコラボレーションによる、日本産食品を使った日替わり社食メニューの開発・提供、②社員が自由に手に取ることができるカフェ・マイクロキッチンに、約30種類の日本産スナック、スイーツ、コーヒー豆の提供、③茶道の先生に協力いただいた「茶歌舞伎」というイベントの実施、といった取組を行いました。

イベント後にGoogle側からいただいたフィードバックでは、1週間の期間中、延べ3万人以上が本サービスを利用し、その満足度は95%で、食品の補充が間に合わないほどの大成功であったとの嬉しい報告をいただきました。また、オフィス内のスナックやスイーツの消費量は通常よりも大幅に増加したとのことで、本イベントにより相当量の日本産食品の輸出に繋がりました。

外資系企業の社員食堂は、我々が今までなかなかリーチできていなかった市場です。社員数の多さもさることながら、そこで働く所得水準の高い方々は日本産食品の主要なターゲットとなります。そのような人たちに対して日本産食品の魅力をPRすることで、引き続きシンガポールにおける日本食市場全体の需要を底上げしていきたいと思っています。

・旧正月における日本産食材を使った魚生(Yu Sheng)フェア

2026年は日本とシンガポールが外交関係を樹立して60周年となる記念の年(Singapore-Japan Diplomatic Relations:SJ60)です。この機会を活用し、シンガポールの「食文化」と日本が誇る高品質な「食材」をコラボレーションした企画として、「SJ60魚生フェア」を開催しています。

企画の検討に際し、実際にシンガポール人が経営する中華レストランに話を聞きに行くと、旧正月の前後2週間(計1ヶ月)には、驚くほど大量の魚生が食べられているようです。職場の同僚と、あるいは仕事の得意先と、または家族や友人など、大切な人と今年一年の繁栄を願って食べる魚生は、特に中華系シンガポリアンにとってなくてはならない食文化であり、多い人は旧正月の期間中は毎週のように魚生を楽しむそうです。ただ、コストの問題もあり、一般的な魚生には日本産ではないサーモンが使用されているとのことでした。

今回実施するSJ60魚生フェアでは、日本産の食材、特に水産物を使用した魚生メニューをレストランや小売店に作ってもらい、シンガポールの方々に、「旧正月にはいつもより美味しい日本産食材を使った魚生を食べよう」という機運を醸成することを目的としました。それにより、消費が活発になる旧正月のタイミングに、日本産食材の需要を喚起することができるのではないかと考えています。

連携してもらいたいレストラン、小売店には1店舗ずつ足を運んで、事業の趣旨などを説明し、協力を仰ぎました。もちろん断られる店舗もあったものの、結果として、外食では現地の中華系レストランを中心に約10店舗、小売では日系・現地系あわせて約26店舗が協力してくれることとなり、面的にも広がりのある取組にすることができました。イベント用のHPやキービジュアルも作成しましたので、もしかしたら皆さんも街中やスマートフォンの画面で見かけたことがあるかもしれません。協力店舗については以下のURLから確認いただけますので、よろしければご覧になってください。

https://japanese-seafood.sg/

おわりに

冒頭、日本の農林水産物・食品の輸出額が1.5兆円とお伝えしました。政府として、これを2030年までに5兆円にするという目標を掲げています。途方もない数字に思えてしまいますが、この目標を達成すべく、日本の農林水産省だけではなく、世界中のJETROや大使館も力をあわせて活動をしています。特にシンガポールでは、日本食市場は成熟しているとよく言われますが、先に紹介したGoogleでのイベントやSJ60魚生フェアのように、今までリーチできていなかった市場の開拓や新たな需要の掘り起こし等により、一歩ずつ地道に輸出額を伸ばしていく取組が目標達成に繋がると考えています。

私は農林水産省から出向して大使館で働いておりますので、食品企業の方とは普段から意見交換をさせていただいています。しかし、今後新たな需要を開拓するためには、異分野・異業種とのコラボレーションも必要になってくるのではないかと考えています。JCCIにご所属されている企業には、様々な分野の方がいらっしゃると思いますので、我々がお力になれることがありましたら、是非連携をさせていただけると幸いです。

<訳注>

1&2 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_action/attach/pdf/index-270.pdf

3 https://www.channelnewsasia.com/singapore/restaurants-catering-services-amid-falling-walk-in-demand-5433331

4 https://www.straitstimes.com/business/economy/slow-payments-among-singapore-firms-rise-for-first-time-in-6-quarters-credit-bureau

5 https://www.mymrt.com.my/projects/rts-link/

目次

<特集>


<編集後記>


執筆者経歴

名古屋大学農学部、同大学院修了後、2013年に農林水産省入省。国産大豆の流通制度改革や、生物多様性条約(CBD)、植物遺伝資源条約(ITPGRFA)などの国際会議対応などを経て、2024年4月から在シンガポール日本国大使館にて勤務開始。愛媛県出身。

シンガポール日本商工会議所

6 Shenton Way #17-11 OUE Downtown 2 Singapore 068809
Tel : (65) 6221-0541 Email : info@jcci.org.sg

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