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シンガポール国立大学(NUS)BLOCK71 Japan 日本~東南アジア 国境を越えたスタートアップ支援

NUS ENTERPRISE
NUS ENTERPRISE Senior Manager / Japan Centre Director

大場 優

はじめに

国際イノベーションスコアで世界1位(1)、スタートアップエコシステムで世界7位(アジア1位)(2)を誇るシンガポールは、人口600万人ほどの小国ながら成長著しい東南アジアの経済発展を牽引しています。そのシンガポールを代表する教育・研究機関である「シンガポール国立大学(National University of Singapore : NUS)」のInnovation部門であるNUS Enterpriseが運営するグローバルアクセラレータ「BLOCK71」が、この度日本での拠点を開設いたしました。BLOCK71を通じ、日本×東南アジア間でイノベーションを創出するために様々な活動を本格化します。

NUS Enterpriseとは

NUS Enterpriseはシンガポール国立大学のInnovation所管部門(日本の大学でいう産学連携部局)として2001年に設立されました。人材育成からインキュベーション、技術移転まで、起業に関わるのあらゆるステージを支援し、イノベーションの循環を生み出しています。

  • 人材育成: NUS Overseas Colleges(交換留学プログラム)、Summer/Winter Programme、Master of Science in Venture Creation(修士課程)などの起業家マインドセット醸成プログラムの企画、運営

 

  • Ecosystem Building 世界中に11の拠点を設置、ディープテック/サイバーセキュリティ/港湾/生成AI/ソーシャルインパクトなど、多様な分野に特化したインキュベーションを推進

 

  • 技術移転:研究者が、自身の持つ研究技術を社会課題の解決にむけて実装(=事業化)し、スタートアップの創業者となるための支援

知財管理から起業家教育、スタートアップ創出/成長/海外展開に至るまでの一連の流れを一気通貫で支援できることがNUS Enterprise大きな特徴・強みであると考えています。今後東南アジアを中心としたスタートアップエコシステムをけん引していくStartup Universityとして、イノベーションの促進、高いポテンシャルを持つ起業家の育成、強力な産業パートナーシップの構築、そしてスタートアップがグローバルに成長できる環境づくり等の取組みを強化していきます。

スタートアップとシンガポール

人口が少なく資源の限られたシンガポールでは「成長」こそが国の至上命題です。その成長を牽引する駆動力として、イノベーションの創出は不可欠な取り組みとなっています。

シンガポール国立大学(NUS)は1905年に設立されたシンガポールで最も歴史のある総合大学です。2024年世界大学ランキングでは世界8位、アジアでは1位にランクインするとともに、19の学術分野で世界Top10に入るなど(3)、研究面でも高い評価を得ており、シンガポールひいてはアジアを代表する教育・研究機関といえます。

現在シンガポール政府はスタートアップおよびイノベーションを最優先事項の一つとして位置づけており、補助金や税制など資金や制度面において手厚い支援を行っています(4)。加えて、VCの数やスタートアップ投資額をみてもアジアの中でトップクラスであり、スタートアップが成長しやすい環境となっています(5)。

その中で、シンガポール国立大学は「イノベーションに必要な高い研究力と人材(Talent and research)」「起業支援の仕組み(Infrastructure)」、「ビジネス構築に必要な豊富な資金(Capital)」、この3点をスタートアップエコシステムの構築に重要な要素と考え、世界を代表するStartup Universityを目指し活動を推進しています。実際に、2023年に行われた東南アジアにおけるスタートアップ資金調達ランキング上位100社のうち、創業者の出身校として最も多かったのがシンガポール国立大学であり(6)、多くの起業家を輩出していることがわかります。

BLOCK71 JAPAN 日本~東南アジア 国境を越えたスタートアップ支援

BLOCK71はNUS Enterpriseが運営するグローバルアクセラレータす。HQであるBLOCK71 SingaporeはOne NorthエリアのJTC Launchpadと呼ばれる政府主導でつくられたイノベーション集積地に拠点を構え、スタートアップの成長支援を行っています。

日本国内ではBLOCK71 JAPANとして、2024年10月にSTATION Ai内にBLOCK71 NAGOYA(パートナー:愛知県)を、2025年3月に高輪ゲートウェイシティ内にBLOCK71 TOKYO(パートナー:JR東日本)を開設しました。これらのオフィスは、東南アジアのスタートアップが日本に進出する際或いは日本のスタートアップが東南アジアへ進出する際の支援拠点としての機能を持ちます。拠点設立以来、AIやロボティクスを含む様々な分野で約15社スタートアップを支援しています。

今後は下記2点を大きな柱としながら更なる活動を実施していきます。

一点目は日本から東南アジアへ、あるいは東南アジアから日本への、国境を越えたスタートアップ支援です。国が違えば文化や商習慣が異なります。さらに日本と東南アジアにおいては言語の違いも大きなチャレンジとなります。海外スタートアップから見ると、日本拠点の設置や日本人Regional Managerの採用は大きな投資であるため、日本でのビジネス展開が見込めなければならない(PoCや契約、投資機会等)一方で、そのようなビジネス機会を創出するためには日本人や日本の言語文化を理解している人材が必須であるというジレンマを抱えています。そこで、BLOCK71 JAPANは自らを「Market Launcher」と称し、POCや契約獲得など市場参入のきっかけとなるビジネス機会の創出や拠点設立を、各種プログラムの提供やマーケットアクセス/ビジネスディベロップメント/プロジェクトマネジメント等を通して支援します。また、日本から東南アジアへの展開を目指す日本のスタートアップに対しても、当学がもつグローバルネットワーク(シンガポール、アメリカ、中国、インドネシア、ベトナムにあるBLOCK71拠点を通じたコネクションとスタートアップ成長支援に関わるノウハウ)を活用し、海外展開の支援を順次実施していきます。

二点目は、NUS Enterpriseが有するノウハウを活用し、日本の事業会社や大学の方々と共に日本ならではのイノベーション創出の仕組みを創り上げていくことです。2025年3月には京都大学とスタートアップ創出・育成支援を軸とした連携の基本合意を締結しました。当学が持つディープテックスタートアップ創出プログラムであるGRIP(Graduate Research innovation Programme)をベースとしながら、日本の環境に合ったスタートアップ創業プログラムの開発を進めます。また、日本の事業会社の方々に対しても、先方の抱える課題の明確化やシンガポール国立大学の研究技術並びにスタートアップとのマッチングを通じたオープンイノベーション促進の取組みも行っていきます。

なお、BLOCK71に加え、NUS Enterpriseは港湾関連分野に特化したPIER71TM、サイバーセキュリティに特化したCyberSG Talent、そして社会起業家を支援するBLOCK71 Social Impact Hub等のイニシアチブも有しており今後日本に関わる活動も検討したいと考えています。

おわりに

シンガポール国立大学がイノベーション創出に貢献するため活動していく一方で、日本においての活動は当学のみで実現できるものではなく、日本国内における様々なステークホルダーの皆様のご協力が必要不可欠です。すでにパートナーとなっていただいている愛知県様、名古屋大学様、JR東日本様、ENEOS Holdings様、京都大学様、Central Japan Innovation Capital様(パートナーシップ締結年順)をはじめとし、様々な強みや想いを持った皆様と協業することで効率効果的なイノベーション創出のスキーム(=エコシステム)を創っていきたいと考えております。日本のため、アジアのために全力を尽くす所存ですので、是非皆様のお力添えの程よろしくお願いいたします。

<訳注>

  1. 2025 Global Innovation Scorecard(Consumer Technology Association)
  2. The Global Startup Ecosystem Report 2024 (Startup Genome)
  3. QS World University Rankings 2024
  4. Singapore Budget 2025(https://www.mof.gov.sg/singaporebudget)
  5. 東南アジアVCインサイト シンガポールVC約60社の分析レポート 2023(JETRO)
  6. Top SEA Startups and where the founders went to school, 2023(Golden Gate Ventures)

目次

<特集>


<着任のご挨拶>


<編集後記>


執筆者経歴

新卒で自動車メーカーに入社、新型開発車両プロジェクトのプロジェクトマネジメント業務に従事。
2年間のタイ赴任等を経て東南アジアでの業務経験を得つつ、2021年に退職しシンガポール国立大学にてMBAを取得。卒業後はシンガポール国立大学に入職し、innovation & Enterprise部門であるNUS Enterpriseにて日本と東南アジア間のイノベーション創出に向けた起業家教育・スタートアップ創出/成長支援活動を推進。京都大学経済学部、シンガポール国立大学(MBA)卒。

yutaka_o@nus.edu.sg

シンガポール日本商工会議所

10 Shenton Way  #12-04/05 MAS Building  Singapore 079117
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